被せ物がすぐ取れてしまう原因は、歯のひび割れだった!?
いつも、ももこ歯科のブログを読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、被せ物がしょっちゅう取れる原因が、歯のひび割れかもしれない、というお話です。
取れた被せ物を歯科医院に持って行き、つけてもらったのに、何度も取れる、とおっしゃって患者さんがいらっしゃいます。まずは、なぜ被せ物が取れてしまったか、原因を考える必要があります。
被せ物と歯をくっつけているセメントがなくなってしまったのか、かみ合わせが原因で取れてしまったのか、新たに虫歯ができて合わなくなってしまったのか、等々です。かぶせ物をつけたばかりなのに、すぐ取れてしまうのは、セメントがなくなっているからとは考えにくいです。また、かみ合わせが原因でかぶせ物がすぐとれてしまうことは、そのかぶせ物を一番最初につけたばかりの時に取れているはずです。新たに虫歯ができて合わなくなってしまっているのであれば、虫歯を治して新しいかぶせ物を作れば解決します。では、虫歯は新たにできておらず、かみ合わせも問題なく、セメントがすぐなくなっているわけでもない場合、ひび割れが原因でつけたばかりのかぶせ物がすぐ取れてしまうのかもしれません。
かぶせ物がしょっちゅう取れる原因がひび割れの症例
症例1は、33歳女性。「被せ物が取れて、つけてもらったばっかりなのに、すぐ取れてしまう。根の先にある膿を治せばかぶせ物はしっかり入るのではないか」というご相談でももこ歯科にいらっしゃいました。
マイクロスコープでひび割れを確認でき、レントゲンでも黒いスリットのような線でひび割れを確認できました。また、症例1の左下の写真は、歯周ポケットを測っていて、ひび割れに相当する歯周ポケットのみが深いことを示します。歯周ポケットが限局的に深いとひび割れが疑われ、症例1の場合、ひび割れが根管の表面のみに存在するのではなく、歯肉側にも連続してあることが予測されます。
図1右に、歯の根の断面図を簡単に示します。ヒビと破折の定義についてお話しします。図1右の黄色い線のひびは、歯根の厚み全域に広がるのではなく、部分的に存在し、黒い線の破折は歯根の厚み全域に広がる場合をいいます。ひびであれば歯を保存することはありますが、図1右側の黒い破折線のようであれば、抜歯が適応になることがほとんどです。
患者さんは、破折があるとは知らず、根管治療を行えば、黒い影が治りかぶせ物がしょっちゅう取れることもなくなる、と考えていたようですが、ももこ歯科の見解は以下のとおりです。
1. 根管治療を行なって黒い影は治るかもしれないが、長期的な予知性は乏しいこと
2. 新しいかぶせ物をかぶせても歯根破折があるためにしょっちゅう取れてしまうことには変わらない
1については、根管の消毒ができて黒い影(根尖性歯周炎)は一時的に治ったとしても、歯根破折から細菌の通り道となり根管へ感染する可能性は否めず、長期的な予知性は乏しい、という考察です。
2については、新しいかぶせ物を入れたとしても歯根破折は存在するので、咬合力が歯に伝搬すれば破折部分が動くので、かぶせ物は取れてしまいます。
ももこ歯科の見解として、残念ながら抜歯が適応とお伝えしました。
ひび割れが原因で、抜歯になることは、患者さんにとっても歯科医師にとっても、残念なできごとです。歯の根のひび割れは、ひび割れに相当する歯周ポケットのみが深いことを示します。歯内療法を行なった後の方が、歯内療法を行なっていない歯よりも、多く見られます。頻度としては、Sjögrenらの報告によると、8〜10年の経過観察中に確認が取れた歯の根のひび割れは、635歯中21歯です(1)。
歯内療法を行なった歯の方が、歯内療法を行なっていない歯よりも歯の根のひび割れが多くなる理由について、議論を呼ぶところではありますが、日を改めてお伝えします。
(1) Sjögren, U. L. F., et al. “Factors affecting the long-term results of endodontic treatment.” Journal of endodontics 16.10 (1990): 498-504.